ある日の夕方の話。
夕方のはずだが、雨のせいか真っ暗だった。
生きていくには食料が必要。食べないといけないわけだ。というより単純に腹が減った。
というわけで、所謂スーパーへ。車のキーと財布を持ち外へ出る。当然雨。駐車場はすぐそこなので、傘は持つだけで車に乗り込む。
ブォ~ン
エンジンをかける。歪んだ世界をワイパーが正す。ライトを点けたと同時に車を走らせる。
あっという間にスーパー到着。さすがに入り口まで遠いので傘をさして入店。雨だが時間帯のせいか人は予想より居た。
何にしようかしら。そんなマダム的な思考はないので、手早く必要なものと食べたいものを買ってレジへ。
その当時はセルフレジが無かったので、普通のレジの列に並んだ。
なんなく支払いを済ませ、買い物カゴを持ち、所謂詰め込みエリアへ。さぁ~詰め込もうと思ったその時、前を人が通った。その人影に反応しチラ見して驚いたんだ。
「え~また変なジジイ居たとかでしょ?」
「分かった!前言ってた痰吐くジジイとか!」
話をカットインしてきたのは会社の女性社員。反省会という名の飲み会でのこと。
僕の前に後輩が、雨の日にバスを降りる際、隣の席の女性が傘を持っていなかったので、どうぞと渡して降りたという話をしたわけだ。それに対し、僕にもそんなキュン話がないのかと無茶ぶりしてきたというわけで。
そう、それに対しての話をしていた最中という状況なのだ。
違うんだなこれがと、勿体ぶりながら軽くあしらい、僕は話を続けた。
雨で髪が濡れていたせいなのか、外が暗いので異常に着ていた白いシャツが神々しかったのか、とにかく女神かと思う女子高生を見たんだ。
「カワイイ子居るんだ…こんなとこにも・・・」
思わず口に出してしまったことを隠すように、急いで袋に買ったものを詰めることにした。だが、今思い出しても、衝撃の可愛さだった記憶がある。
まっ記憶は美化されるものだか…。
へ~と興味なさそうな女性社員などお構いなしに、僕はその女子高生がいかにカワイイかを力説していた。決してイヤラシさがないよう終始、山田孝之の顔マネのような真顔で話していた。結構寄せたつもりだ。手応えはある。
女性社員はふざけてんのかと、明らかに不機嫌な表情になってきたので、急いで普通の顔に戻し、話を進めることにした。
何故か結構な量を買ってしまった。恐らく雨のせいだ。言い訳になるかアレだが、非常食が必要だ的な思考になったのかもしれない。無駄にカップラーメンなどの袋のスペースを奪うものを買っていた。
袋2つの買い物。通常ではあり得ない量だ。やはり雨が僕の理性をも流してしまったのかもしれない。
女性社員の呆れた表情から、決して上手いこと言ってないのだなと認識しつつ、話はクライマックスへと向かう。
袋を持ちながら外へ。未だ雨だ。ふと見ると、神のイタズラかそこに女神が居た。先程の女子高生が雨宿りのように、そこに居たんだ。
ガサゴソと袋を鳴らしながら、隣に向かう僕。どうにもこうにもなんで声をかけた。
「すいません。ちょっと申し訳ないんですけど、傘開いてくれませんか?両手がアレで・・・」
驚いた女神は一瞬考えていたが、すぐさま聖母のような顔になり『良いですよ』と言葉少なめに笑顔で答えながら、僕の脇に挟んでいた傘を持ち、軽やかにパッと音をたて、花火のように開いてみせた。
『はい、どうぞ』
そう笑顔で突き出してきた傘を横目に「それどうぞ」と、僕は雨の中を走りだしていた。
『いや、あの・・・』という女神の声を背に、僕は車へと急いだ。完璧だ。完璧すぎる。
マジかっけんじゃね?
びしょ濡れでも後悔はない。僕は車に乗り込もうとした。その時だった。
ビッビッ
(!?)
クラクションと共に1台の車が女神の前に止まった。助手席に乗り込む女神。走り出す車。滲むテールランプ。
あれ?おかしいな、ワイパー効かないな・・・。
しばらく僕の視界はクリアになることはなかった。
結局、その子は親を待つ為にそこに居たわけで、傘は必要なかったという話なのだが。
真顔で僕を見つめる女性社員達。後輩に関しては、口が開きっぱなしだった。
クライマックスまでの持って行き方、弱いが一応オチもあった。話としては上々だと思うのだが。いまいち終了後のウケが悪い。気がする。
それともアレか?良すぎて的な?まぁ~そうここまで実際の話を上手くまとめれないしな。凡人じゃ無理な話だ。とか思ってたら女性社員が口を開いた。
なんか怖い。マジ犯罪。
(嫌ぁああああ‼)
犯罪者扱いされた僕。あれ?おかしいな?雨じゃないのに。視界が・・・あれ?僕のワイパーどこかな?
“さす”のは傘だけにして欲しい。
(切実)
止まない雨はないと言うけれど・・・
病まない雨の間違いではと、そう思う時がある。
(どういう意味?)
皆さん、くれぐれも傘は忘れずに。
ですね。