久々にRと話をした。電話で。
Rは幼馴染と言える友人。もちろん男性。余談だけど幼馴染=異性と考える人が多いとか。すぐ恋だのなんだの考えたい方々が多いってことだろうけど。そりゃ恋愛マンガやドラマ文化はなくならいはなと。そんな話は良いとして。
暑いという状況が、夏という状況が、あの日の夏の思い出話になったのは必然だった。
そう僕は思い出してしまった。あの夏の出来事を。
僕とRとそうだなMとしよう。あと後輩2人の計5名だった。後輩はAとBってことで。
Mが家の車を使えるということでドライブに行こうという流れから、勝手な夏と言えばな心理から心霊スポットに行こうとなった。
Mの家の車に5人乗車。乗用車に5人は中々キツイが全員10代という青いエネルギーが全てを可能にしていた。
運転は当然M、助手席にR、僕は一番安全と言われている運転席の後ろの席に座った。当然後輩AとBはそれ以外の席に座っている。
行き先はダム。ありがちな心霊スポットではあるのだけど、中々当時はヤバイで有名な場所だった。
ダムの上の道に何本あるか分からないのだけど電灯があって、奥から3本目の電灯の前でクラクションを3回鳴らしてエンジンを切ると・・・という話だ。
ある人はルームミラーを見たら知らない人が後部座席に居るのを見たとか、その座席が濡れていたとか。ある人はそもそも霊感が強いので憑依されて気を失ってしまったとか。当時の一部の高校生の中では有名な話だった。所謂、先輩から聞いた話なんだけど~ってヤツだ。それを思い出したからってヤツだ。
ダムという場所だけあって中々の山奥のような道を走ったのを覚えている。当然夜にだ。その日は月がえげつねーほどの光を発していたので、暗さはそれほど感じなかったのだが、逆にその光にただならぬ何かを感じていた。だっふんだ(どした?
ダムに着いてすぐ、Rが提案してきた。
『まず、他の電灯で起きないか調べよーぜ』
これは当然だ。そもそも3本目という縛りは意味があるのかという考えからの提案であり拒否するものなど誰も居なかった。
ダムの上は橋の上のような感じで両側に欄干と呼ばれる冊があって、その横に等間隔で電灯がある感じ。今回の電灯がある方だけ歩道もあった。確かだけど。だから車を電灯に寄せても歩道分離れることができるわけだ。
パァーッパァーッパァーッ
クラクションを鳴らし窓を開けた後に
ドゥクドゥン
エンジンを切る。
・・・・・・・・
パァーッパァーッパァーッ
ドゥクドゥン
・・・・・・・・
繰り返し繰り返し確かめる作業。正直肝試し的要素は失っていた。途中から窓は開けっぱなしのままだった。最後だなとやってきた目的の奥から3本目の電灯の前。もう何かのノルマを達成するべく無感情のまま作業は始まった。
パァーッパァーッパァーッ
ドゥクドゥン
・・・・・・・・
何も起きないのかと安堵した直後だった
ゴ~ン
ゴ~ン
(え?)
何かに共鳴しているのか欄干が鳴っている。間違いなく全員が気づいた瞬間だった。
確実に音が近づいてきていると。
ゴ~ン
ヤバイのか?全員が開けている助手席側の窓に集中していた
その時だった。
バン!!
(ぎゃぁああああああ!!)
確実に真横にある欄干がえげつねー力でぶん殴られたような巨大な爆発音が鳴り響いた。
『M!車出せ!』
Rの叫び声でMは車を、エンジンをかける・・・
え?
嘘のように全くエンジンが何度やってもかからない。
シュルシュルシュルシュルシュルシュル・・・
シュルシュルシュルシキシキシキシキシキ・・・
「うぉーぅおー!」
雄叫びあげながらエンジン始動を試みるM。急げと肩を揺するR。悲鳴を上げ続ける後輩A,B。僕は無駄に運転席のヘッドを握りしめていた。
パニック状態の車内。真っ先に離脱したのはMだった。
「うぉおおおー!!」
『おい!ちょっ待てゴルァ!』
発狂しながら車から飛び出したMをハンターのように追うようにRも飛び出した。
『S!車持って来いよ!』
(えぇええええ~!!)
いやしかし、一刻も早くこの場から逃げなければならないのは確かだ。その為にはこの車を動かさなければならないのは必然。車内の中で車の免許を持っているのは僕だけだ。ましてやMのじいちゃん愛用のマニュアル車だ。見よう見まねでどうのなど無理に決まっている。どう考えても僕が運転するしかないに決まっているわけだ。
『ゴルァー!M待てってんだよ!』
Rの声も遠くなっていく。急ぐしかない。覚悟を決めた僕は、他人の車を良いことに土足で椅子の上を歩き運転席に座った。本来であればドアを開け一旦出てから運転席に乗り込めば良いのだろうが、車の外に出ることへの恐怖がえげつねーほど強まっていたため苦肉の策だだったわけだ。
頼むぞ・・・
祈りながらもセルを回す
シュルシュルシュルシュキシキシキシキ・・・
シキシキシキシキギュッギュッギュッ・・・・
全米が驚愕した映画のワンシーンならカモンカモンカモンと叫ぶとこだが僕はハリウッドスターじゃない。ましてや俳優でもない。僕は底が抜けてしまうのかと思う程アクセルを何度も踏み込んでいた。
カモンカモンカモン
(言うんかーーーい!)
心で叫んでいた
(言うてないんかーーい!)
そんな話はどうでも良くて
何度目だろうか明らかにイケると思える音が変わった瞬間だった。
ギュギュギュギュォオオオ~ン
(っしゃーーー!!)
ウキョキョキョキョ
ホイルスピンをかましながらMのジジ車は発進した。
「Sさんあそこッス」
後輩Aの声と同時に前方で嘘みたいに取り押さえられているMとその傍で確実に鬼のような顔をしているRが居た。
『はよ乗れや!』
助手席の後ろにMをぶち込み助手席に座ったR。アイコンタクトで僕は車を走らせた。申し訳ないが凄いスピードで。通ってきた気持ちの悪い森たちを抜け、もの凄い勢いでコンビニの真ん前の駐車場に突っ込むように停車した。
助かった・・・
誰もが安堵した。その時だった。
コンビニの光に照らされた車のフロントガラス一面に無数の手の跡が付いていた
(マジこえぇええ~!!)
全員が絶句したその時、Rが叫んだんだ。
『洗車ぐれ~しろよ!』
(そういう事じゃねぇー!)
『あったあったわ。いやマジビビったからなアレ』
「ある意味俺の運転のおかげだからな」
『確かに。しかしアレだな・・・
どんだけ洗車してねんだって話だよな』
(未だ理解してねぇー!!)
このあと真意を説明することなく電話を終了した。これでいい。これでいいんだよ。
きっと僕らのあの夏はこれからも続いていくんだ。
ちなみにそのダムのその後を僕らは知らない。
知らなくていいこともあるんだよ世の中にはきっと。
そういうことにしとこうと思う。
ですね。