色んな人が居る。当たり前だけど居る。
だからこそそれぞれの人生がある。生き方がある。
そんなことを僕は考えていた。いや、考えさせられたが正解かもしれない。
強がり
とある日にとある場所でのこと。
僕はベンチと呼ばれる長椅子に名立たる戦国武将の如く力強くもあり、涅槃像の如く優雅でもあるオーラを纏い片肘をついて横になりながら目を閉じていた。
親子らしき二人がキャッチボールをしようとしていた。始めようとする会話で僕は目を開けた。シャキーン
子供は小学5~6年生くらい。恐らく少年野球をやっている感じ。その父親が相手をしてやるというよりさせられるという雰囲気だった。
幾度と大丈夫かと子供側が問いかけることからも、この父親は野球以前にキャッチボール自体得意ではない感じがした。その風貌からもお世辞にも運動が得意なようには見えなかった。ジャージを着こなさせていないからだ。
最初は近くから徐々に距離をとってキャッチボールは始まっていった。距離が離れると共に子供の球速は増していく。それに比例して幅跳びの着地スタイルのように父親は腰が引けグローブをはめた左手を理不尽に前に前にと突き出していった。
何てコミカル親子なんだとそう思った時だった。
ドスッ「ぶへっ」
それ程速いわけではない子供が投げたボールが父親の胸にえげつねーほどめり込んだ。父親は拳銃で撃たれたかのように胸を押さえながら両膝を着いた。バキューン
「あっ」と言いながら子供は父親の下に走って行った。父親は子供に気づき立ち上がり少し大きめに声をあげた。
「あっぶねぇー」
(当たっとるがな!)
誰が見ても直撃。問答無用で直撃。何なら貫通したんじゃないかくらい直撃。何に対して危ぶんだのか謎だが父親は大声で言った。いや、ある意味叫んだ。もしかしたら、死の淵からの帰還という意味での言葉だったかもしれないが、どう考えても恐ろしいほどの強がりという名の照れ隠しにしか思えなかった。
何故父親はキャッチボールをすることを承諾したのかという怒りに似た感情を押し殺しながら、父親たる者という宿命を背負ったこのキャッチボールド下手おっさんを僕は瞼の裏に焼き付けた。来年まで覚えてる自信はない。
ことわざ
「これで2回目だぞ」
上司から注意をうける部下。そんな場面に僕は居た。と言っても注意を受けているのが僕ではなく、かと言って注意しているのも僕ではない。
とある商談の席での話。所謂お客さん的立場が僕なわけだ。ある仕事を依頼していたので、その進捗を尋ねたら先程の言葉が発せられたのだ。色んな意味で僕はいい迷惑なわけだが。
上司側の言葉から分かるように同じミスをしたであろう部下。しかも、その内容がしょうもないだけに上司の言葉となったわけだ。当然だが、いい加減にしろよの意味合いが強いわけだ。いや、もう呆れている方が強いかもしれない。それくらいクソみたいな内容なのだ。
「すみません。早急にやり直します」
突然その上司は立ち上がりそう僕に頭を下げながら言い、すぐさまお前も謝れと言わんばかりに部下の背中を押しながら僕の前に立たせた。内心、猪木ばりに闘魂注入と称してフルスイングビンタをかましてやりたいがハラスメントやらコンプライアンスやらが僕の理性を保たたせた。元気ですかー!
「次こそ頼みますね」
そう優しい男を演じて商談を終了させた僕は、あふれんばかりの怒りがこぼれ出る前に逸早くその場を去ろうと後ろを向いた。その時だった。問題の部下の声が響いた。
「二度あることは三度ありますからね」
(お前が言うな!)
すぐさま打ち消すかのように「三度目の正直だろうが!」と上司の声が響いた。が、直後にその部下が「自分への戒めです」と返していた。
その部下の真意は分からない。単に間違えただけのか、それとも言う通り戒めなのか。戒めだとしても言葉足らずで誤解を与える言い方であり、現に誤解させたわけだ。気を付けますなどの言葉が必要だったはずだ。いや、だとしても今言う必要があったのだろうか。お客さんという立場の僕がまだいるその瞬間に。そもそもお前のミスが原因なわけで、反省してるのかとも疑ってしまう。疑われてしまうのにだ。ハムニダ。
僕は別れ話の後の物分かりの良い素敵な元カレのように一度も振り向かずその場を去った。出口付近での最後の挨拶の時の僕の顔は、きっとねぶた祭を彷彿させる怒り顔だったに違いない。ラッセラーラッセラー。
その上司でも部下でもない位置の自分で良かったと強く思った。
ラッセラーラッセラー
であるけども
コロナウィルス発症の人数が日々ニュースから流れているある日の出来事。
「また北海道か。お前大丈夫なのか?」
「それだけ検査してるってことですよ」
コロナウィルスの発症した場所出身者に話をふるというあるあるでのこと。もう何回聞かれたのか北海道出身者が答えていた時だった。
「自分とこゼロっすよ」※
※2020/3/11現在(2020/3/17に感染者出ました)
そう茨城県出身者が自慢気に話した瞬間だった。言われ続けていたストレスだったのか無駄に北海道出身者がつっかかっていった。
「コロナにすら魅力を感じてもらえないんだな」
魅力度ランキング最下位の茨城県に対しての嫌味だった。だが、茨城県出身者にはそれほど効いておらず、すぐさま前向きな言葉を返していた。
「住みたい県1位になるかもですね」
1位は分からないが、ある意味魅力になるかもしれないなと話は膨らみ、さらに免疫力が強いってことならやっぱ納豆なのかと茨城県と言えばの名物の話にまで広がっていった。そしてこの流れから誰もが予想できるダジャレへと話は進んでいった。
「やっぱ納豆食べてるからだな納豆」
「だな、納豆か。なるほどなるほど」
「なるほど。正に~ですね」
そう茨城県出身者にパスが出された。そのパスを決めてこの会話は終わる。
終わるはずだった。
「正に大豆ぉぅ~夫ですよ」
(うそーーーーーん)
いやいや、納豆は大豆だけども。それも有りには有りだけども。この場合なるほどまで言ってるわけだからさ。納豆食べてなるほどなわけだからさ。そこじゃないでしょ。
その場の全員が大事に繋ぎ直し再度パスを出した。しかも最後に「納豆食うわけだから」までヒントを出してだ。誰もが信じて疑わなかった。次こそ納豆食うと納得と言ってくれることを。
「正に~
ねばってますよね」
(微妙~)
いや、だけども。納豆は粘るわけだけども。わざとなの?バカなの?ここまで来ると茨城県出身者がどうのではなく、コイツ単体の問題だなと誰もが感じ。パスをあきらめたその時だった。
「正に~
健康になっとぅる」
(ある意味スゲー)
結局納得という言葉は出ることはなかった。ある意味その場の全員が納得していたに違いない。話を止めることに。
空気を読める僕でありたいなと身震いした。嘘だけど。
最後もやっぱり
色んな人が居る。当たり前だけど居る。
だからこそそれぞれの人生がある。生き方がある。
僕はどう生きているのか。生きていくのか。生きていくべきなのか。生きていけるのか。
そんなことを考えてしまった。考えさせられてしまった。
人の生き様を見て、僕は僕の生き様を探しているのかもしれない。進む道を探しているのかもしれない。
見つける気はないのに。
そんないい加減が、僕の生き様なのかもしれない。しれないかなと。
かなっ~とぅ
納豆の話は糸をひくな
ですね。